公園や道路にいる猫を勝手に飼っていいの?【地域猫・迷い猫・野良猫】

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拾った猫は誰のもの?

公園や路上にいる野良猫たち。お腹を減らした姿を見ると、連れて帰ってあげたい、と思うことも。

道や公園で暮らす猫を、誰にも断らずに勝手に自分の猫にしてよいのでしょうか?

見た目は野良猫でも実は迷子の猫で、飼い主が探しているかも。その猫を連れて帰ったら、犯罪になるのでしょうか?

この記事では、「猫を拾って飼う」ことに関連した法律問題を考えてみます。

街を歩く猫は誰のもの

道路や公園で見かける猫たち、彼らはそれぞれ立場が違います。

猫にもいろいろな肩書があります。

  • 散歩中の飼い猫
  • 迷い猫
  • 捨て猫
  • 生まれついての野良猫
  • 地域猫

これから、この5つのそれぞれについて、「勝手に連れ帰って飼ってよいか」を考えます。

捨て猫、野良猫の場合

「捨て猫」は、持ち主が「捨てた」時点で所有権が放棄されています(つまり所有者がいません)。

また「生まれついての野良猫」は、そもそも誰のものでもありません。

こういう「誰のものでもない猫」は、あなたが自分の猫として飼い始めた時点で、自動的にあなたに所有権が発生して、法律上も正式に「あなたの猫」になります。

このような法律上の仕組みを「無主物先占」(民法第239条1項)と言います。

(民法第239条1項)
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。

「占有」とは、物を事実上支配することです。

猫の場合は、「家に連れて帰る」ことが「占有」(事実上の支配)にあたります。

したがって、野良猫を飼うと決めて連れ帰るだけで、その猫はあなたの所有物になります(所有権が発生します)。

魚釣りと同じ原理です。海で釣った魚が釣った人の所有物になるのも、これと同じ理屈です。

なお、野良猫だと思ったけど実は飼い主がいた……という場合は、「無主物」ではないので、あなたの猫にはなりません。飼い主から返せと言われたら、返還の義務があります。

野良猫を連れ帰るときは、念のため獣医さんでマイクロチップの埋め込みの有無を調べてもらったり、地元の警察に迷い猫の届出(遺失物届出)がでていないかなど、確認されると良いと思います。

誰かが餌をあげている野良猫

公園や道路にいる野良猫は、たいていは近所の誰かからエサをもらって生きています。その人に声をかけずに勝手に連れ去ってよいのでしょうか?

一般論としては、法律的には問題ありません。

野良猫にエサをあげている人は、普通、「野良猫に餌をあげている」という意識はありますが、その猫を「自分の猫」とは思っていません

つまり、先ほど御説明した「所有の意思のある占有」をしていないので、その人に猫の所有権は発生しておらず、猫は「無主物」のままです。あなたが飼うために連れて帰った時点で、あなたに所有権が発生します。

ただし、法律的には勝手に連れ帰ってOKでも、世話している人が心配しないよう、ひと声かけるほうがよいでしょうね。保護されたと知って喜んでくれるかも知れませんし。

また、猫を「外飼い」する人もいますから、その場合は、野良猫との見分けがつきにくい場合もあります。餌をあげている人がわかっている場合は、やはり「声かけ確認」したほうが良いと思います。

地域猫(さくら猫)の場合

最近は「地域猫」という言葉が社会に定着してきました。

「地域猫」とは、そもそも何でしょう?

一般的な定義上は、地域猫は「ボランティアによって管理されている野良猫」です。

環境省の「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」は、地域猫について以下のように説明しています。

(地域猫とは)地域の理解と協力を得て、地域住民の認知と合意が得られている、特定の飼い主のいない猫。
その地域にあった方法で、飼育管理者を明確にし、飼育する対象の猫を把握するとともに、フードやふん尿の管理、不妊去勢手術の徹底、周辺美化など地域のルールに基づいて適切に飼育管理し、これ以上数を増やさず、一代限りの生を全うさせる猫を指します。
『環境省 住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン』

この説明によれば、地域猫とは「特定の飼い主のいない猫」なので、誰の所有物でもありません

したがって、地域猫を家に連れ帰っても犯罪にはなりませんし、連れ帰った人は「無主物先占」(民法第239条1項)によって自動的に猫の所有者になります。

ただし、そうは言っても、ボランティアや街の人が大切に面倒を見ている猫ですから、勝手に連れ帰るのは、合法的ではあっても、心ない行為ですよね。いるはずの猫が突然いなくなったら、みんなが心配します。

もし、どうしても飼いたい地域猫に出会ってしまったら、普段エサをあげているボランティアの方に了解をいただいてから連れて行く…という段取りがよろしいかと思います。

迷い猫、外出中の飼い猫は「他人の財産」

「迷い猫」や「散歩中の飼い猫」には、「飼い主」がいます。

猫は生き物ですが、民法上の扱いは、スマホや自転車と同じ「物」です。飼い猫は飼い主の「所有物」です。

したがって、他人の飼い猫を勝手に連れ去ると、「窃盗罪」や「占有離脱物横領罪」になります。

もっとも、明らかに飼い猫とわかる猫を連れ帰る人はいませんよね。トラブルになるのは、飼い主がいるかどうか、よくわからないケースです。

  • あなたが他人の飼い猫を野良猫と間違えて連れ帰った場合でも、本当に飼い猫とわからなかったのであれば、窃盗の故意(盗むという意識)がないため、犯罪にはなりません。
  • いっぽう、少しでも「もしかして飼い猫かも」と疑いつつ連れ帰ると、「他人のものを盗んでいるかも知れないという意識(未必の故意)」があったと判断されて刑事責任を問われる可能性があります。

街の猫をすぐに連れ帰ることはせず、一定期間観察したり、エサをあげている人を見つけて質問して、飼い主がいないことを確認したほうが良いと思います。

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また、刑法上は犯罪にならないケースでも、連れ帰った猫の民法上の「所有権」はあくまで本来の飼い主にあります。あなたが拾った猫は、法律上あなたの猫になることはなく、あなたの家にいても「他人の猫」のままです。

…と書きましたが、実は、法律の規定により合法的に「他人の猫」を「自分の猫」にできる場合があります。次項で説明します。

他人の飼い猫を自分の猫にする方法

他人の猫を自分の猫にする……物騒なタイトルをつけましたが、犯罪行為を推奨しているわけではありません。

誰かの飼い猫を何らかの事情により保護して飼い始めた場合、その猫を法律上正式に自分の猫(自分の所有物)にするには、2つの方法があります。

  1. 取得時効によって自分の猫になる
  2. 遺失物法によって自分の猫になる

このうち現実的な方法は2ですが、一応、1の取得時効についても簡単に触れておきます。

取得時効による所有権の取得

民法に「取得時効」という制度があります。他人の所有物を10年または20年の長期にわたり自分のものとして管理すると、所有権が移転して、あなたのものになる、という制度です(民法第162条)。

猫も法律上は「物」ですから、10年または20年飼うことで(期間は具体的な事情により異なります)、他人の猫があなたのものになる可能性があります。

ただ、そうは言っても、20年とか、10年とか、猫の平均寿命を考えると、あまり意義ある制度ではありませんね。

10年は長いですね。次に説明する遺失物法の手続きを経ることによって、数ヶ月という短い期間で、他人の猫をあなたの猫にすることができる場合があります。

遺失物法による取得

先述のとおり猫は法律上は「物」です。したがって、他人の飼い猫を拾うことは、落ちている他人の財布を拾う行為と、法律的には同じです。

たとえば、道で財布を拾ったら警察に届けます。警察はその財布を拾得物(落とし物)としてウェブサイト等で公告します。

公告後3ヶ月経っても持ち主が見つからない場合、民法第240条の規定によって、その財布はあなたのものになります。

民法の規定は以下のとおりです。

(民法第240条)
遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

拾った財布が3ヶ月で拾った人のものになるのと同じように、拾った猫も、3ヶ月で拾った人のものになります。

あまり知られていませんが、拾われた猫が遺失物(落とし物)として公告されることはよくあります。

たとえば、下のスクリーンショットは、2022年3月から4月の2ヶ月間に東京都世田谷区内で「拾得物」として警察に届け出られた動物の一覧です。猫が4匹、届けられています。拾われた場所はいずれも「路上」です。

警視庁拾得物公表システムより

ここに公告された猫は、3ヶ月経つと、拾った人の所有物になります。

**なお、権利を放棄することもできるので、飼い主が見つからない場合でも、拾った人に引取る「義務」が発生するわけではありません。自分で飼う意思がない人も、安心して、迷い猫を警察に連れて行ってあげてください。

以上、街の猫を勝手に連れ帰って飼ってよいか……というお話でした。

補足説明ーここは読まなくても大丈夫です

なお、上記の説明ではあえて省略したのですが、民法195条に、以下のような規定があります。

(民法第195条)
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

ここで言う「家畜以外の動物」に猫が該当するならば、他人の猫を野良猫と誤解して1ヶ月飼えば、もとの飼い主から返せと言われても返さなくてよいことになります。

しかし、通説的な見解としては、猫は現代の日本では人に飼われることが一般的であるため、「家畜以外の動物」には該当せず、猫に民法195条の適用はないと考えられています。

この民法の規定で所有権を取得できるのは、たとえばタヌキあたりだと思います。

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